こだわり⑨ 健全な圃場を保つ、全ての始まり秋冬作業 の 4回目

⑨-④ 健全な稲は健全な圃場に育つ

 前回お話した当家の耕し方にはさらに意味があります。

 

 『天地返し』をしようとすると、通常のロータリー耕に比べてかなり土を深く削り取らなければなりません。この『深く』が良いのです。

 

 第一に稲の『根張りが良くなる』ようになります。簡単に考えて深くまで耕すわけですから、来年の稲は容易に深い所まで根を伸ばすことができます。

 

 第二に田んぼの内部の『床(とこ)が安定する』ようになります。床が安定とは? 田んぼは少し変わった圃場(圃場:田や畑など、食物を栽培している土地のこと)です。圃場の表面には、ある程度の深さまでは耕されて柔らかくなったり、水を張って代掻きした後はとろとろになったりする層(耕作層)がありますが、その下には『水をそれよりも下の層にあまり漏れささないプールの底のような硬い層』である『床』が存在します。最近の機械農業ではどうしてもこの『床を荒らしがち』になっています。

 

 多くの田では機械で何度も何度も通ることで土が踏みしれられ、硬くなり、『床が年々分厚く』なって、稲が根を張ることのできる『耕作層が年々薄く』なっています。一旦こうなると、小型のトラクターのロータリー耕では歯が立たず、がんばって深く耕そうとすればするほど床が荒れていきます。

 

 そこにはまた少し複雑な機械的な問題が隠されているのです。簡単に説明すると通常のトラクターの後ろの作業機部分は、『グランドを均すトンボのようなもの』で、ただ引っ張っているような構造とお考え下さい。かなり自重があるために通常は土の中に食い込んでいこうとします。

 しかし極端に固い層などに出くわすと自然に浮き上がり浅くなってしまうのです。その結果比較的柔らかい部分の床は年々削られ深くなり、比較的硬めな部分の床はどんどんよけて通られ浅くなることになり、大抵の田では『土中で床が波打っている』のです。

 ただ厄介なのは土中でそんなことが起きていても、本当の表面部分は綺麗に均す構造になっており、耕した直後の田を見ても、見た目には高低は無く、まさか土中で床が乱れまくっているとは思いもよらないという耕作者がほとんどです。

 ただそういった耕作者もこういうことはよく言うのです。『この田んぼ、所々柔らかい部分があるんだよね』・・・

(これこそなぜかはわかっていない発言です)。

 

 『床が乱れている』とどういう不都合がでてくるのでしょうか? 

 

 先程『床はプールの底のようなもの』と表現しました。これが最もわかり易いイメージだと思うのですが、プールの底が波打っていたりぼこぼこしていたりして、水平でもなければ、均一なゆるい勾配も無い、そんな状況でプールの端から水を抜くとどうなるでしょう? 

 

 あちらこちらに『小さな水溜り』『大きな水溜り』場合によっては『大きな池』ができることがあるかもしれません。こういう部分が『澱(よど)みの元』です。

 『澱み』では水の入れ替わりが滞り易く、物が変な腐り方をして『有害なガスを発生』させたり、田を必要以上に湿田化させたりします。

 実際には上に耕作層の土が乗っていて蓋をしているので、さらに乾きにくくなり、『澱み周辺』『いつまでもじゅくじゅく』していて軟弱になり、ロータリー耕の際さらに深くえぐられて、床の乱れをさらに増幅させていきます。

 

 更に『澱み』には施肥された肥料成分も集まり易く、その周辺は過肥状態となって『倒伏』したり、『食味も低下』したりします。とにかく『ムラが多く不均一な状態』が圃場のあちらこちらに点在し、当家の考え方では、全くもって『不健全な圃場』といえます。

 

 だからといって、大型のトラクターで無理矢理深くロータリー耕を実施するというのも、感心しません。なぜなら、大型機械は重量が大き過ぎるので、機械が通っただけで、床にタイヤの後が溝のように『轍(わだち)』となって残るため、やはり『床を荒らす』のです。

 

 じゃあどうすれば? 当家では耕起作業は一般的なタイヤタイプのトラクターをやめて、クローラータイプのトラクターを使用しております。しかもクローラーの幅も広いものを使って、地面にかかる圧力を通常の3分の1以下に抑え、タイヤタイプとは違って機械の足元が床に達することはありません。  

 

 とにかく『田にやさしい機械』で田に入るようにしています。(稲刈りのコンバインも同様で通常よりも幅の広め長さも長めのクローラーで接地圧を下げておりますし、代掻き用トラクターは『こだわり④』でも書いていた通り、あえて軽量な小さなトラクターを使用しております。)とにかく床を乱したくないのです。

 そうして細心の注意を払って田んぼに入り、毎年床の乱れを無くすべく、まるで『床をかんながけする』ように削いでいくのです。例えるなら『床の整った綺麗な田』という大きなプランター容器の中に、耕作用の健全な土を層にして並べて入れてやるように、下の方に植物を微生物に分解してもらう腐葉土層を作り、中央には『土の目を詰まらさ無い』ような少し『大粒の団粒』を(そのための『ざっくり、ゴロゴロ』耕起です)、最上層の浅い部分のみ最終代掻きで田植えができる状態のトロトロ層にと、均一であり、かつ『理想的な層状の状態』に仕上げていくのです。

 一般の方のように『秋起し~代掻きまでを同じ機械の同じ深さのロータリーでただ同じようにかき混ぜる』では、決して理想的な圃場は完成しません。

 

 近代農業として、いくら機械を使うようになったとしても、工夫を怠らずに田んぼを大切にする気持ちを持って努力をすれば、『機械を使ったからこそ今までより良くなった』といえる成果が出せるものと思いますが、『ただ体を楽にさせるだけの効率化』を図って、機械化を勧めても、大規模化を推し進めても、それは他国でよく見られるような、持続不可能な荒廃農場を増やす方向へと向かっていきます。

 

『健全な精神が健全な肉体に宿る』ように『健全な稲は健全な圃場に育つ』

のです。

 

 『長年にわたって受け継がれてきた大切な圃場を、常に健全に保ち続け、また次世代に引き継いでいく』これさえ守っていれば、植物たちは必ず応えてくれると感じています。

 

 

 

 

 

★稲作用語★ 米粒用語

『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。

『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。

『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。

『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。

『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。

『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。

     精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。

『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)

    その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。

 

 ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。

★稲作用語★ 農作業用語 その他

刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。

『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。

登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。

⑨-④ 健全な稲は健全な圃場に育つ