こだわり⑨ 健全な圃場を保つ、全ての始まり秋冬作業 の 2回目

⑨-② 天日干しを選ばなかった理由

 理想を現実にするためには、とにかく米以外の『稲の体』(わら,根)を来年の田植えまでに稲が吸収できる形に分解をしておいてやらないといけないということになります。

 

 最も厄介な敵は『わら』です。『稲穂の飾り』や、正月飾りなどのしめ飾り等で『わらを干した物』を見た事がある方も多いと思いますが、結構いつまでもしっかりとしていると思いませんか?一旦乾燥したわらは結構長持ちする(つまり分解されにくい)のです。

 稲刈りの頃は朝晩の気温差が大きくなってきますので、刈り終った田のわらはすぐに乾燥してしまいます。稲刈りの直前まで立って生きていたので、『稲刈り直後は生』なのに次の日の昼を過ぎるともうパサパサ(乾燥)してきます。だからこのわらを自然に分解させるには『少しでも乾燥する前に、一刻も早く耕すことが有効』であり、『刈取り当日の田起し』と『刈取りの次の日の田起し』では大違いということになるのです。

 ましてや『稲刈りが全部済んでから・・・』なんてもってのほかです。

 

 いったいみんなはどうしてるの?どうしてもわらを腐らせたいと望む人は、『石灰窒素』等の化学物質を撒いて(この方法はかなり一般的です)わらを腐らせます。また薬品です!でなければ諦めて腐りきらなかった分の施肥量を増やす。といったところでしょうか。

 

 そもそも畑に使うためにわらを全て回収して別で使ってしまう方だって少なくはありません。やはり現代農業は大量投薬、大量施肥が一般的なのです。『こんなことではいけない!』と考える意識の高い生産者さんたちの中には、冬中、田に水を張るといったことをされている方々もおられます。とても良い方法だと思います。しかし残念ながら当家の地区では秋以降用水は完全に止められて水を張ることができません。

 とにかくこの地域で可能な限り、薬品量、施肥量を少なくしつつ安定栽培を続けるために、『人為的な努力が増えてもいいから、より良い方法を追求していきたい』と考えると、行き着くところが『刈取り当日の田起し』だったのです。

 そして実はこのことが、『こだわり①』で『天日干しを選ばなかった理由』の1つでもあったのです。『天日干し』をすれば『籾を乾燥させる』と共に『当然わらも乾燥させてしまう』からです。こうしてどんどん『より良い』を追求していくと、こだわり同士が絡み合い、どのこだわりにもまた別の色々なこだわりに繋がる重要事項があり『もうこだわらずにはいられない』ようになっていくのです。

 

 また土作りでは『籾摺り』作業ででてきた『籾殻』も貴重な『米』以外の『稲の体』として『生のまま』田に還していきます。しかし『籾殻』は『わらよりさらに腐りにくい』ために短いスパンで物を考えるのをやめます。焦って短いスパンで腐らせることを重視すれば、『薬品投与』系になってしまうからです。『籾殻』は3~5ヵ年計画で考えます。3~5年間で腐ることを見越して田に還していけばよいのです。

 

 単純に考えれば『今年の分は来年に間に合わなくても、5年前のものが腐ってくれて来年はそれを使えばいい』的な考えで長い目で見てつじつまが合っているやり方でいけば、多くの農家の方が実施されているような焼却をしなくてよいのです。

 そしてまた『籾殻は少しずつしか腐らない』のですが、これを逆手にとって『少しずつ腐って少しずつ効いてくれる肥料』と捉えればよいのです。そのため『施肥』作業で一般的に用いられる『緩効形肥料』(ゆっくり長い時間効いてくれる肥料)の代用品として考えており、結果的に『緩効形肥料』の施肥量を少なくすることができています。

 

 ここまでは、土作りの作業の時間的な流れや内容についてのこだわりを説明いたしましたが、続いてはその作業自体のあり方について『健全な圃場』の本質となるこだわりについて説明します。

 

 

 

★稲作用語★ 米粒用語

『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。

『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。

『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。

『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。

『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。

『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。

     精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。

『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)

    その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。

 

 ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。

★稲作用語★ 農作業用語 その他

刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。

『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。

登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。

⑨-② 天日干しを選ばなかった理由