そもそもなぜこんな苗を作ろうとしたのか?元々当家の苗は太めではありました。
しかし今ほど頑丈ではなかった。
その答えは先程の(こだわり④にて紹介)『大きなタニシ君』との出会いです。
大変な目に遭わせてくれました。それまでの当家の苗でも完敗でした。
『何か考えないといけない』
『逆境は変化へのチャンス』ですね。どうにかしないといけなかったんです。薬は使いたくないのに使わなければならなかったし、挙句に除草剤まで・・・『本当に何とかしなければ・・・』。そして見えてきた性質。逆に『共存への道』。さらに『害虫』から『益虫』への可能性。
それらを実現するために『こだわり④』の作業手順に加えてどうしてもクリアーしないといけない壁。それが
『圧倒的に強い苗作り』
だったのです。
研究の結果、『大きなタニシ君』は、稲の苗の4枚目の葉がしっかり伸びた苗『4葉期』(といいます)を過ぎるとだんだん食べるのが鈍くなることが分かってきました。5枚目の葉がしっかり伸びた苗『5葉期』になるとほとんど食べません。
通常の田植えは『3葉期』~『3.5葉期』(4枚目が半分伸びた)あたりですから、かなり『ひねささないといけない』のです。通常の種まきをしてこんなことをすると、先述の通り、窮屈さで大きく長く伸び過ぎ、それでいてモヤシのように痩せたひょろ長い苗になってしまいます。
まずは苗箱への『播種』(種まきのこと)の際、今までに比べて相当粗く種まきをします。でもこれだけではまだどうしてもひょろ長く伸び、細く弱々しい苗にしかなりません。
そこで当家が取り組んだのが
『厳しく育てる』こと
苗箱を田んぼに並べる際に最初に芽を伸ばさせるため、日光量を制限し保温もするためにシートで覆います。通常は分厚目のシートを使用するのですが、当家では薄い薄い破れかけな寒冷紗を用いて、しかも毎日日中は通気をするために覆いの両端をはずしに行きます。ハウスの中で育てておられる方はよくこういった作業をされていますが、当家のように田んぼに直に並べている方はあまりこういったことはされません。しかも覆いは6日目には完全にはずします。そんなことして良いの?とよく聞かれますが、常に苗の状態を気にかけているからできることであって、『大丈夫ですよ』とは答えられない危険な作業です。しかし当家の『厳しく育てる』はこんなことでは終わりません。もはや『痛めつける』に近いことを実施します。
『そんなことして良いの?』と聞かれている6日目のそのやわな苗を
『踏みつける』のです。
といっても足で直接踏む訳ではありません。『大きなローラー』を苗の上に転がし、全ての苗を踏みつけていくのです。
当然踏まれた苗は斜めに折れたようになりますが、3日後にはまた逆の方向から踏みつけていきます。この時踏みつける力が前回よりも強くなるように、ローラーの内部に重石代わりに水を少しずつ投入します。こんな踏み付けを3~4日ごとにそれぞれの苗が田植えをされる3日前まで踏み続けます。
最後に田植えをする苗は実に8~9回も踏まれ、そのときのローラーの重さは30kgを超えています。さぞ『へろへろ』になってしまうことかと思いきや、なんと『頑丈な太く固い軸』、それでいて30日以上も経った苗が『5葉期』にもなっているのに、全ての苗箱で苗長10cm強の長さを、まるで角刈りのようにきれいに長さがそろったままで、ずっとキープしているのです。『究極のずんぐり苗』自信作です。(理屈は昔の『麦踏み』と同じようなものだと思います)
田植え後、まずは『大きなタニシ君』。見向きもしません。完璧に共存が成立です。箱の上は踏めますが、根は踏めませんから根張りはすごい状態です。移植後短くとも太く大きな面積を持つ5葉たちは、しっかりと太陽光線を浴び、『もう踏まれなくなった』開放感?からか、一気にぐんぐん成長していきます。
当家はこだわりをもって他家よりもかなり遅めに植えている(詳細は『こだわり⑥』にて)ので全体の『中干し』(土用前後の時期に一度水を止めて田を乾かす工程)の時期に用水が止まってしまうまでに、そこそこ成長させないといけません。そのためにスタートダッシュは欠かせないのですが、この苗は十分なダッシュを見せてくれるので、理想的な時期に植え付けをすることが可能になります。
『苗半作・苗八分』という言葉があるのですが、苗の良し悪しで、本質的な出来の5~8割が決まると言われているほど苗は重要です。今後も苗作りには十分に気をつけ、頑張って丈夫な苗を作りたいと思います。
次回からは先ほどちらっと出ました、こだわり⑥についてお話しさせていただきたいと思います。
品種・気候にあった適期の見極めについてのお話です。
『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。
『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。
『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。
『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。
『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。
『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。
精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。
『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)
その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。
ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。
『刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。
『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。
『登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。
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