こだわり④ 生き物との共存を考えた田植え前作業 の 1回目

④-① 「代掻き」は「田植えの直前」がベスト!

(代掻きの風景)

 田植えをするためには、それまで耕してきた畑のような田んぼに水を張り、かき混ぜ、水となじませ『どろどろの田んぼ』にする『代掻き』という作業が必要です。結構時間のかかる作業です。

 

 また田んぼからは毎年『米』を収穫するわけですし、『稲わら』や『籾殻』という稲からできたもので、食べない部分を『田んぼに還す』という作業(しない人も多いですが・・・)をしたとしても、食べた米の元になる養分は何かしらの形(化学肥料であれ、有機肥料であれ)で投入してやらねばなりません。この作業を『施肥』といい、通常は代掻き前に田の全面に肥料をまいて耕し鋤き込む(すきこむ)方法が主流です。

 

 これらはいずれもトラクターという機械を使って全ての田んぼを一通りずつ回らないといけないのですが、ここでもやはり『食味向上に向けてはあまり良くない効率化』が横行しています。通常の農家さんたちは『一斉に田植え』をするために、その直前に『一斉に代掻き』をします。さらにその前に『一斉に施肥』作業をするといった流れで、とにかく同じ作業をまとめて実施していかれます。基本的に同じ作業をまとめてすると楽ですし、無駄も少ない。効率も良い。

もっともな意見です! 理解はできます。でも当家の感覚では弊害が多すぎます。

 

何がいけないの?

 

 『代掻き』は土の表面に生え始めていた雑草たちも一緒に泥の中に埋め込んでいきます。土の質にもよりますが『代掻き』後1日置けば、『田植え』は可能でこのタイミングで『田植え』をしてやれば、結構雑草に負けずに稲が先に伸びていってくれます。(雑草は一から生えますが、稲はすでに伸びたものを移植するわけですし・・・)そうすれば除草剤もかなり少なめの使用量で済むのです。状態を見て場合によっては完全不使用も可能(25%の田で実施)。

 

 ところが、他家のようにまとめて『代掻き』をするとどうでしょう?『代掻き』は先程も書いた通りに時間のかかる作業です。例えば当家の面積を当家の地域の通常の機械で実施をすれば全ての田んぼの代掻きをするのに最低でも10日、通常2週間ほどかかります。

 

 こんなに時間がかかっては最初に代掻きをした田んぼからは当然雑草がどんどん生えてきます。暖かい時期ですし、稲も生えていないのでは誰も邪魔する物はなく当然の結果です。こんなことではえらいことになります。そこでみんなはどうするのか?除草剤です。一般的な生産者において『代掻き時の除草剤は定番』なのです。『代掻き』後5日ほどは『田植え』もできないような劇薬です。私が若い頃、かつては当家でも使用したことがあります。が、恥ずかしい話?私が実は農薬アレルギーのような体質なのです。子供でも撒布できる作業でしたし撒布作業をしていますと、気分は悪くなるし、手は荒れてボロボロになるし(やわなのです)。そして、『こんなもの使わなくて済む方法ないの?』から始まり、今の栽培法に行き着いています。

 

 通常の農家さんは、この後『田植え後』にもまた別の除草剤を使用されます。

 

 さらにこれだけではありません。害虫対策です。近年当家の地域では稲を食い荒らす『大きなタニシ』(元々は食用で外国から輸入された外来種らしい)が横行しております。(後にこの『大きなタニシ』君が当家にとって良い子に変わるのですが・・・)放置しているとすごいことになります。『田植え直後』の『やわらかい稲』が好きらしく、田んぼの半分以上を食べつくされたことがあります。(コノヤロー!!)当然他の生産者さんにとっても脅威です。駆除をすべく殺虫剤を撒くことになります。

 

また薬か!

 

嫌なんです。『薬』。何か良い方法ないのかな?

 

 そんな折に意外な事実が発覚します。先程の半分以上の稲を食べつくされた田んぼには、その次の年たまりかねて殺虫剤を撒布。駆除しました(スッキリ)。が、意外なことが、その田んぼはそれまでから奴等はいっぱいいましたが、駆除する前の10数年ほとんど雑草に苦しめられることなんかなかったのに、駆除をしたその年は、なんと『雑草だらけ』

 ってことは? そうです、奴等が食べてくれていたのです。それ以来『奴等』改め『大きなタニシ君』との共存への取り組みが始まります。研究・勉強会・研究・・・ どうやら『大きなタニシ君』は『稲の苗』のみならず『柔らかい草が好き』ということが判明。通常の『田植え』で移植後の苗は、『どうやらちょうど良い柔らかさ』らしいということが分かりました。でも稲が育って硬さが増してくると周りに生え始めた柔らかい雑草の芽を食べてくれるということも分かったのです。

これは使える!! これは『こだわり⑤』にも繋がります。

 

 そもそも『代掻き』をするとトラクターの爪に貝殻を傷つけられ、『大きなタニシ君』の大きなものは薬を使わなくても一旦は駆除されます。爪の間をすり抜けた小さな子たち(これでも結構たくさんいます)が、一般的な『まとめ代掻き』で田植えまでに時間があると、成長し、さらに『代掻き時の除草剤』でしばらく食べるものなどが無かったりすると、お腹を空かして大爆発!『田植え直後』の『やわらかい苗しかない』所に飛びついて猛威を振るうのです。

 

やはり『代掻き』は『田植えの直前』(2日前)がベストです。

 

 ベストな状態で植え、さらに『大きなタニシ君』に食べられにくい苗(詳細は『こだわり⑤』で)を作り、植えることで『大きなタニシ君』はその力を私たちに貸してくれます。『かつてあんなに憎かった』のに『今はこんなにいとおしい』存在になるとは・・・今はかけがえのないパートナーです。圧倒的に除草剤の量は減りました。使う場合も、成分的にも軽いもので済むようになり、無農薬栽培も年々増加。おかげで色々な細かな生き物が田んぼに帰ってきました。それを食べる生態系も徐々にできていきます。

 

 『こだわり⑦』に示すような特殊な植え方も合わさって、毎年夏にはうちの田んぼだけ天然の鴨がいっぱい集まります。『人為的なカルガモ農法』ではなく、

 

『天然の鴨たちに自然に選んでもらった田んぼ』

 

になりました。それを見ているだけでも、『うちの田んぼは良い田んぼだ』と手前味噌ですが心が癒されます。

 

 こだわり④の第1回、いかがでしたでしょうか。次回は少し話を戻して、『施肥』についてお話しさせていただきます。肥料を撒くベストなタイミングはいつなのか?

 次回もお付き合いの程よろしくお願いいたします。

 

 

★稲作用語★ 米粒用語

『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。

『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。

『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。

『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。

『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。

『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。

     精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。

『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)

    その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。

 

 ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。

★稲作用語★ 農作業用語 その他

刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。

『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。

登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。

④-① 「代掻き」は「田植えの直前」がベスト!