こだわり② 適期を逃さぬ余裕の刈取り の 1回目

②-① 刈取り適期を重視!

 『こだわり①』の実施に向け、色々付随した工夫が生まれてきます。作業のこだわりは実は色々なこだわり同士が絶妙に絡み合って生まれてきているのです。この『こだわり②』の実施のために『こだわり③』があるというようになっています。

 

 『こだわり②』では、トレーサビリティ(=食品の安全性を確保するため、栽培や飼育から加工・製造・流通などの過程を明確にすること)の実施のための当家のこだわりをお話しさせていただきます。

 どうぞ最後までお付き合いください。

 

 『こだわり①』では主に機械的な調整作業に向けた取り組みのような話が主でしたが、今回のこだわりからは、そこにつなげていく『栽培作業のこだわり』が加わり始めます。まず当家では

 

『刈取り適期を重視』

 

して刈取り作業を実施しております。その時に大事になることが、『刈り旬』(ちょうど良い刈り頃)を集中させないこと(『こだわり③』の実施により実現)と、『大型刈取機械の導入』です。これにより色々なメリットが生まれます。

 

 刈り旬が集中すれば、先にも述べた通りに毎日大量に刈り取らないといけなくなり、『こだわり①』の実施が難しくなりますが、『刈り旬を集中させない』ことで毎日の稲刈りの面積を少なくさせることができます。

 

 一日の稲刈りの面積を少なくさせることにより、当然乾燥機に投入する籾の量が少なくなります。乾燥機内で籾を循環乾燥させるスピードはある程度決まっているので、単純にタンク内の籾の量が半分になれば同じ時間で乾燥層を通過する回数が2倍になります。なので

 

『投入する籾の量が少なくなる程、より低温温風で乾燥させることができる』

 

のです。

 

 また一日の稲刈りの面積を少なくさせることで、乾燥機への搬入を1回で完了させられる割合を大幅に増やすことができ(後にも書きますが2回搬入は1シーズンで2日だけ、全体の10%未満です)、『こだわり①』の精度を高めることに大いに役立ちます。

 

 基本的に当家では

 

1日に1枚の田んぼしか刈りません。

 

 正確には1つの乾燥機には1枚分の田んぼの米しか入れません。(万が一、刈り旬が集中した際に1日に数枚の田を刈る場合は共同作業場の乾燥機を借り、とにかく複数の田の米を混ぜません。)かつては当家でも他家と同じように1日に何枚もの田んぼを刈り、同じ乾燥機に投入していた頃がありました。そうすると味が混ざるのです。こちらの田んぼでできた米は良くできて美味しい物ができたのに、もう一つの田んぼの米が芳しくなくそれが混じることでとても残念な結果になるという経験を何度もしました。

 

『1つの乾燥機に1枚分の田んぼの米しか入れない』

 

ということが理想と分かっていても、案外これを実現させるためには『刈り旬を集中させない』工夫など、かなり多彩な工夫が必要で、設備の無駄も伴います。他のこだわりと併用しやっと7年ほど前から完全実施できるようになりました。

 

 そもそも『同じ生産者が作っていても田んぼごとに味は多彩に変化する』のです。同じ地域内で作っていても、土の質も違えば、水の巡りも違い、水温なども変化します。周りの地形によって日当たりも違ったりします。極端な話、道1つ隔てた向かい同士の田で、同じ日に田植えをして同じ日に施肥をし、同じように管理し、同じ日に刈り取っても、ちょっとした土の違いで『こんなに味が違うの!』と驚くことはよくあります。同じ生産者が、同じ苗を使って、同じように栽培してもこれです。ましてやすぐ隣の田んぼの『他の生産者』の米の味なんて全く別物です。だから『○○産コシヒカリ』のようなフレーズを耳にするたび、なんと『ざっくりした』『曖昧な』と感じてしまうのです。  

 

 『名産地』であっても『どの生産者』『どのようにして栽培した』かが問題で、それらを簡単に『ひとくくり』にするのは本来はおかしな話なのです。なので当家のお客様に『お店で買った「○○産コシヒカリ」よりずっと美味しい』などというコメントをよく頂きますが、そういうこともあるだろうと思っています。『名産地』は当然良いお米ができる条件が多数そろっており、平均値は高いのは間違いないでしょうが、『名産地』にもブランド名にあぐらをかいてあまり努力をされない生産者様もおられる事でしょうし、そういった米が混じって、結果とし平均的な『○○産コシヒカリ』より美味しい米なんて全国各地にあるものと思います。

 

 話を戻しまして、『1つの乾燥機に1枚分の田んぼの米しか入れない』というこだわりは、実は多くの生産者は完全実施しておりません。当家ではこれを実施することにより、

 

一袋一袋のお米はどの田んぼで生産され、

いつ土作りはスタートし、いつ田を耕し、いつどのような量の施肥をし、いつ代掻きをし、

いつ田植えをし、・・・いつ落水をし、いつ刈取り、どこで仕入れた籾種でいつ消毒し、

どんな温度管理で芽を出させ、いつ播種し、いつ苗踏みを何回し、・・・などなど、

一袋一袋全ての袋について全ての作業履歴を完璧に把握すること、つまり

 

『トレーサビリティー』

 

を実現できています。

(元々は消費者様のためではなく、研究開発に利用するための自分自身の蓄積栽培データとして記録保管していたものです)

 

 さらに、当家では『米の食味』にこだわっていますので、私自身自分の米の味の分析能力を高め、また皆様にそれを信頼して頂けるよう『米・食味鑑定士(通称:お米ソムリエ)』の資格を取得しております。それを受け、全ての田の米を食味分析計でも測定しており、その測定結果まで示すことができます。

 

 こだわり②の第1回、いかがでしたでしょうか。次回は、『大型刈取機械の導入』についてお話しさせていただきます。さらなる食味向上への取り組みにつながっていくお話です。次回もお付き合いの程よろしくお願いいたします。

 

 

 

★稲作用語★ 米粒用語

『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。

『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。

『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。

『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。

『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。

『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。

     精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。

『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)

    その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。

 

 ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。

★稲作用語★ 農作業用語 その他

刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。

『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。

登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。

②-① 刈取り適期を重視!