こだわり⑧ 均一で健全な生育を可能にする、究極の溝切り の 1回目

⑧-① 激しい『中干し』はしない!

 『溝切り』とは一般的には、『田の排水能力を良くする為、稲の植わっている田の中に深めの溝を作っていく作業』のことを言います。

 良い溝を作るには、タイミング的に『中干し』(夏場に一度田の水を無くして、土壌を乾かし足元を固める工程)の前後に行います。『中干し』は別名『土用干し』と呼ばれ、一年で一番暑い時期の出来事です。

 つまりこの『溝切り』は作業的にも大変な重労働なのですが、何よりも『暑さとの戦い』でもあるのです。

 

 ですから最近は『全く溝を切らない』方がほとんどになってきました。その代わり彼らはどうするのかというと『激しい中干し』を行うのです。

 

 夏の最も暑い時期に水の無くなった田んぼをさらにそのまま水も入れずに放置します(ひどい人は数週間~1ヶ月干す人もいます)。すると稲はたまりかね土の中に含まれていた水分をどんどん吸い上げます。そもそも田は『代掻き』の際、土にかなりの量の水を加えかき混ぜて作った『とろとろの泥』でできていますから、土の内部にも相当な水分を含んでいます。彼らはそれを稲に全部吸い上げさせるのです。

 

 田の土は『泥』から『かんかんに固まった乾土』になってしまい、吸い上げられた土中の『大量の水の体積』分、当然『土の体積』もぐっと減ります。そのため土の表面からは土中深くまで『大きなひび割れ』ができます(激しい場合は手が手首ぐらいまですっぽり入れられるような大きなひびができます)。彼らはこれを『溝代わり』に使おうとするのです。

 

 確かに『重労働は伴わない』ですし、『かんかんに固まった乾土』が、秋の作業を楽にさせてくれます(秋に足元が固まっていなければ機械で刈ることができなくなる、もしくは相当大変になるからです)。しかしそれはあくまでも『人間の勝手な都合』であって、このやり方は『リスクが大きすぎる』のです。

 

 中干し後期の時期は稲がその体内に、将来穂になる『幼穂』という部分を形成する時期であり、その後も『穂を作り』『花を咲かせ』『実を充実させていく』という重要な過程が続いていきます。これらには土中の養分がとても必要で、植物はその養分を水に溶けた状態で体内に取り込みますから『とても大量の水を吸い上げないといけない』のです。

しかし『激しい中干しによる大きなひび』『土を大きく引き裂き』土の中に大きく張り巡らされていた『稲の根を次々に切断』していってしまいます。また『かんかんに固まった乾土』に閉じ込められた養分はなかなか外には出てこなくなり、土の持っていた力も発揮できません。当然栄養不足になります。すると

 

彼らは何をするのか? 化学肥料等による『肥料の過剰投与』です。

 

 こうなることを見越してはじめに過剰投与する人もいれば、この時期に過剰投与する人もいます。秋に稲刈りが終わった後の田で、刈り株から新しく芽が伸び、場合によっては20~30センチ程に伸び穂をつけているような田を見たことがある方もおられるかと思います。あれは大抵の場合、土の中に過剰投与された肥料が吸い上げられずに残ってしまっている証拠なのです。

 

こんな『稲の力も発揮できない』『土の力も発揮できない』不健全なやり方はいけない!

 

 当家の田では、通常は稲刈り後に放置はしませんが(詳細は『こだわり⑨』)、訳あって放置している場合でも、そんな姿にはなりません。土の中の養分を、『健全でしっかり伸びた根たち』が十分に吸い上げたからです。研究に協力し、当家の稲を何本か抜いて調査をしてもらった際にその根張りの凄さに研究員さんたちが驚いておられた程です。

 

 やはり『激しい中干しは良く無い』のです。意識の高い生産者で、秋にどんな軟弱な足元になろうとも、機械で刈れなくてもいいから『中干しは全くしない』という方もおられるくらい、『激しい中干し』は『食味向上に向けてはあまり良くない効率化』の一つなのです。

 

 こうした観点から、当家では『中干し』は『相当軽い中干し』しか致しません。(地区全土で激しい中干しを好む地域などでは3週間以上、用水が止められる所もありますが、そんな田んぼでは世間の中干し前に満々と水をたたえておいて、雨水も利用し、できる限り軽めの中干しにとどめます)。当然『中干し』しない田もあります。しかし秋に困ることはありません。

 

『尋常ではない溝切り』を実施するからです。

 

 次回は当家のこの『尋常ではない溝切り』についてお話させていただきます。

 

★稲作用語★ 米粒用語

『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。

『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。

『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。

『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。

『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。

『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。

     精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。

『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)

    その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。

 

 ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。

★稲作用語★ 農作業用語 その他

刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。

『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。

登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。

⑧-① 激しい『中干し』はしない!